とある湧き水1

 夏の湧き水は冷たいけれど、冬の湧き水は意外と温かいものです。夏は冷たく、冬は温かい。自然水はうまくできています。温度がほぼ一定だからでしょう。まるで体温を持った地球の生き物のようです。ところが、水道水は夏はなま温かく冬は冷たすぎるくらい。地球の体温を失った加工の飲み物となったからでしょうか。

 そのかわり家に居ながらにして蛇口をひねればいつでも水が出る、冬でもお湯が瞬時に出る、便利になったものです。
 冬の水汲みの苦労は母から何度も聞きました。子どものころ母は長野に奉公に出され、遠い親戚の家に預けられました。奉公の中で冬の水汲みが一番つらかったと幾度か話してくれました。今はもう聞くことができませんが……。

 いい時代になりました。いのちをつなぐ水の確保はいとも簡単にでき、当たり前のようにその恩恵に現代人はあずかっています。
 でも、便利はとかく人を傲慢にし、感性を鈍らせます。水の恩寵に気づかぬまま無為に日々を送り、気づかぬうちに便利がとんでもない曲者となりしっぺ返しをすることもありうるのです。物事には表もあるし裏もあるということです。

  世界は水不足です。日本だけでも1日に2億トン近くの工業用水を使います。自動車1台を作るのに100トンから120トンの水が必要です。人は生きていくために1日に2、5Lの水が必要です。
 それに農業用水に使うための帯水層からの地下水の大量のくみ上げ、温暖化による氷山の縮小、ヒマラヤやエベレストなどの山雪の減少は、水不足をさらに深刻なものにしています。将来、食糧不足と共に水不足が起こり、世界では今や大国による水の争奪戦が始まっているとも言われています。

 日本は、水の豊かな国です。モンスーン気候帯で雨が多いからです。そのため森が茂り森からきれいな川があちこちに流れより、私達に清浄なる水を供給してくれています。湧水も豊富です。これが、「かつての日本は」とならないように、いつまでもいつまでもきれいな水の国であり続けたいですね。

 ところで、そんな豊かな水の国、日本が水の輸入国だということ、水不足国だということはご存じでしょうか。

 仮想水(バーチャルウオーター)と言いますが、仮想水を年間1000億トン輸入しています。というのは、日本は年間640億トンの食糧を輸入していますが、640億トンの食糧を作るには1000億トンもの水が必要だからです。実質1000億トンの水の輸入国なのです。決して日本は水の安泰国ではありません。だから、これからも森をもっともっと大切にしていきたいものです。

 豊かな森が息づく東北は貴重です。原始の深い森があります。白神ブナ林、秋田杉林、青森ヒバ林、平庭高原白樺林等純林もたくさんあります。どこかに未踏の湿原も隠れています。
 また、冬の豪雪は裏を返せば豊かな水のよりどころです。厳しい冬を暮らしながら森や水田や畑地を守ってきた東北人の長い長い歴史が、水の豊かさを支えてきました。そういう歴史があって、今、豊かで便利な水の恩恵を享受しているのです。

 そんなことを考えながら、一つまた一つと、とある湧き水を訪ねていきたいと思います。液体の水、固体の氷、気体の霧、靄、霞等という水の三変化を五感で感じ取りながら浸かってきたいと思います。時には温泉に浸りながら。

 便利さゆえに人からそっぽを向かれた小流れの、とある湧き水、家主は尋ね歩き仲良くなりたいと思っています。
 名高い湧き水はその気になればいつでも訪ねられますが、昔、暮らしと共にあった谷口の名もない湧き水。夏には草が生い茂り、行く手を阻みますが、これからの季節は草も枯れ、枯れ草をかき分けかき分け行くと、その先に小さな流れがあり、上流を辿って遡ると、湧水口が見つかる、そんな小さな湧き水が家主は好きです。
 昔はいのちをつなぐ大切な清水であったのでしょうが、今では誰も見向きはしなくなった市井の湧き水。地図には載ってない湧き水。 街道のはたに忘れ去られた湧き水。そんな湧き水を見つけては訪ねていきたいと思います。

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