物置小屋と黒猫

 川と物置小屋の間に、朽ちかけて使われていない鶏小屋があります。篠竹が、周りを覆っていて近寄り難く、見て見ぬふりをして、素通りしていました。
 暖かい5月の日のことでした。黒猫が一匹鶏小屋の脇でひなたぼっこをしているようでした。ちょっと野性味があって、人には懐かないぞ、という雰囲気がする猫でした。精悍な顔つき体つきで、家主と目が合うと、さっと逃げていってしまいます。
 こんな寒い地にも猫がいるのか、夏はいいとしても冬は大変だろうな、などと心配してしまう家主ですが、黒猫は姿を見せる日もあれば、しばらく見せないときもありました。

 真夏のある日、ふと気がついたことがあります。物置小屋の二階の窓ガラスが割れていました。風のいたずらかな、ガラスが薄いので、強風で割れたのだろうと気にせず何日か過ぎました。
 でも、よくよく考えてみますと、おかしいことに気づいたのです。ガラスの破片が外にまとまって割れていました。もしも、風のいたずらなら、ガラスは外ではなく、小屋の中側に割れて落ちるはずです。外に落ちていたとすると、小屋の中から何か力が加わって割れたに違いありません。
 小屋に何かいるのか、誰か入ったのか、考えても謎です。不思議です。整合性をつけられるようにあれやこれやと頭を整理して考えてみました。わかりません。怪談めいてきましたが、考えても謎は解くことができませんでした。
 
 それからしばらくしてふと、気がついたことがありました。そういえば、あの物置小屋の木製の重い引き戸、立て付けが悪くて、きちんと閉まらなくて少し開いていたな、それをこの間、二人がかりでぴったりと閉めたことがあったな、と。

 ガラス窓が割れていたのはその後です。
 もしかすると、その木戸の隙間から何か動物が出入りしていたのではないかな、物置小屋はその動物の住み処で、出入り口をふさがれたので、仕方なく二階のガラス窓を割って外に出た、とも考えられます。そうすると、5メートルはある二階の窓から、ガラスを割って、ひょいと飛び降りたことになります。そんな芸当ができるものは……あの野性味のある黒猫に違いない、そう思うようになりました。

 この推理は当たっているのかいないのか、真相はまだ霧の中です。でも、それでいいのだと思います。田舎暮らしに謎や不思議はつきものですから。

 まだ片付けの手をつけていない物置小屋が、秋雨にしっぽりと包まれています。中に何があるのか、何かがいるのか、わかりません。しばらくは、そのまま手つかずです。
 最近、お目にかかることない黒猫。黒猫が今でも、この北国のどこかでたくましく生きていることを願っています。そして、いつか再会できたらと思うのです。

      PDR_1050.JPG
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