縄文、大湯環状列石

 なぜ、石なのでしょうか、石でもって何を表そうとしていたのでしょうか。
 木の柱でも家でもない、土器でも、土偶でもない、石の造形。ここに何か意味があるのでしょうか。いや、縄文人は「ある意志」を持っていたのではないでしょうか。
 二重の円で囲まれた中心の立石、そこから外に広がり延びる時計の短針のような石。40~50メートルもあるおおらかな円をかたち造るたくさんの石群。大蛇のように曲がりくねった道に敷かれた石、石。

 衣食住に直結した道具ではない石、およそ生活の役には立たないおびただしい数の石の群。
 単なる祭祀場でもお墓でもない、そこには、今までの遺物とはちがって、縄文人のある意志が示されていたのではないのでしょうか。

 先日、秋田県鹿角(かづの)市十和田大湯にある大湯環状列石へ行ってきました。まだ雪残る大湯の町は、遠くに八幡平の山を望み、丘陵と森と、小さな川と田圃が織りなす気持ちよい風景が続いていました。こんな処に住むのもいいんじゃないかと、思わせる峻険でない穏やかな風景が広がっています。途中の田圃には遠くシベリヤへ帰る旅の途上でしょうか、数十羽の白鳥の群れが羽を休めていました。のんびりとした春の午後です。

 しばらく車を走らせると、県道昇格の国道に案内板があります。それに沿って県道を進み、坂道を上った丘陵地帯の一角に大湯環状列石の遺跡は広がっていました。遺跡の広場から見る風景はぬるいのです。尖っていないのです。近くに大きな川(アイヌ語で言う「ペ」)の大湯川があり、後ろは谷になっています。周辺は、小さな川や沢(アイヌ語で言う「ナイ」)がたくさんあり、近くの森は、八幡平や四角岳の深い森につながっています。かつて縄文人が住んでいた処は、家主もまた、住んでみたいと思う緩やかな風景が広がっている処でした。名所でもない、眺望がきくところでもない、普通の田舎の風景。でも、どことなく惹かれるのんびりとした風景が、残雪にはねかえった春の光に、ますます輝いて見えるのでした。

 環状列石群はお墓であることは確かなのでしょうが、お墓だけではないでしょう。祭りの場でもあったのでしょうが、でも、それだけではなかったでしょう。石でできていることに違う意味が込められていたのではないでしょうか。
 石は風化されずに残ります。いつまでも形がこわれずに残ります。だから、この石群は、今から4千年前の縄文後期の人々が、後世までずっと残して伝えていってもらいたいという意志のもとで作ったものだったのでしょう。縄文人が自分たちの考えや生活文化を子々孫々絶やすことなく残しておきたい、という意志を持って作ったにちがいないと家主は考えています。
 つまり、遺跡として残ったものではなく、縄文人が残したものだったのではないでしょうか。それが今までの縄文の遺物とはちがうところです。縄文の土器や土偶や祭祀の道具は実際に生活に使っていましたが、後世に残そうと思って作ったのではありません。生活に必要だから作ったのです。ところがこの環状列石群は祭りや墓の場所であったと同時に、後々の人たちに残そうという意志のもとで作ったに違いないと、家主は思っています。高い精神、文化を持っていたから、それを伝え残そうと思ったのではないでしょうか。

 石の多くは石英閃緑(せんりょく)ひん岩で、北東4~6キロ離れた安久谷(あくや)川から運んできたものだそうです。それも、7000個もの石を何年かかかって運んできたようです。平均20~30キロ、中には200キロの石もあるので、冬に雪の上をソリに積んで運んだのでしょうか。並々ならぬ熱意にはただただ敬服するだけです。

 今後、環状列石と太陽の関係性だけではなく月の関係も研究していってほしいです。万座環状列石と野中堂環状列石を二分する県道も何とかしてほしいです。車の通らない歩道にするとか、野山の木々を植えるとかしてほしいです。遺跡内のソメイヨシノは古木でいいのですが、今後木を植えるときは山桜や秋田杉や白樺や桂やブナなどの昔からの地元の自然木にしてほしいと思います。
 でも、配置されている石のひとつ一つから4千年前の縄文人の営みが見えるようで素晴らしい遺跡であることに変わりはありません。マイナスイオンを発するという石英閃緑(せんりょく)ひん岩の造形美は家主の心に縄文の世界の新しい広がりと奥行きをもたらせてくれたのです。
 これからも、北東北の数々の縄文遺跡を訪ね、縄文の「にほひ」をかぎ、縄文の空気に触れ、縄文人の風景から見える縄文人の思想を、このブログでもお伝えしたいと思います。それが、現代の混迷から抜け出る鍵のひとつになると、家主は思っているのです。

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