田んぼ通い

庭の花菖蒲が咲き出しました。ドイツ菖蒲のような豪華さはありませんが、気品のある美しさを湛えています。江戸の時代からずっと愛され、千以上もの色変わりがあるといいます。色とりどりの花模様は、紫陽花同様雨によく似合います。華やかと清楚さを併せ持つ陰暦五月の花です。

陰暦の五月は連日、田んぼに通い詰めています。ぬるんだ水に浸かり、田の草を取ります。この時期はイネの株間に生えるヒエやホタルイやシズイなどの芽を、手で掻いて取ります。腰をかがめ一歩ずつ歩いて掻き取るので、時間がかかります。除草機も押して転がします。これがなかなかの力仕事なのです。

ぬる水に浸り草掻きをしていたら、あめんぼやおたまじゃくしにゲンゴロウや水カマキリがいました。ヤマアカガエルの卵塊も浮いています。ヤゴも泳いでいます。蜘蛛が糸を張り出しました。ヒルもいます。カルガモやハシボソカラスやヤマドリがやってきます。

生き物たちが集散する青田に、今日も私は出かけてゆきます。

6月23日(金)夜7時から花田久美子さんと藤原佳子さんのコラボ「天と地の唄」の催しがありました。「今、ここ、私」を離れる唄と音楽の世界。天と地の宇宙に包まれる気持のよい、陰暦五月晦日の夜のひと時でした。


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渚作り

野山に、時鳥(ほととぎす)や郭公(かっこう)や筒鳥(つつどり)が渡ってきて鳴き始めました。空木(うつぎ)や藤の花が咲き、海老根(えびね)、延根千鳥(のびねちどり)、采配蘭(さいはいらん)、甘野老(あまどころ)、一人静(ひとりしずか)、二人静、鈴蘭などの野の花が、そっと、あるいは群がり咲いています。いい季節になりました。いつもの自然の役者が今年も田んぼの周りに揃い、いざ田植えの時です。

畔(くろ)塗り、田起こし、水入れ、荒がき、代(しろ)だし、と順に田植えの準備をしていく中で気がついたことがあります。これは海で言えば、ひたひたの渚を作っているのだなと。人工的に渚を作る作業が田植えの準備なのです。

渚は海でもなく陸でもないところ、それはまた海であり陸であるところです。渚は鳥や魚や蟹や貝やイソギンチャクやゴカイなど、たくさんの生き物で賑わいます。田んぼは水の中でもなく土の中でもないところ、それは水の中ともいえますし、土の中ともいえるます。稲にとっての心地よい生育場所ですが、稗(ひえ)や蛍藺(ほたるい)やこなぎや、またヤゴや水蜘蛛やゲンゴロウやイモリや水かまきりなどたくさんの生き物たちの棲み処でもあります。

海と陸を結ぶ渚が、生きものにとって気持ちいいのと同じように、水と土の境目が稲には快適な場所なのです。稲のために快適な人工の渚を作ることが、田植えの準備と言えます。海と陸の境目の渚、水と土の境目の田んぼ、町と山の境目の里山、そういう境目に生き物は多く集います。生きものの集う境目作りに、ここしばらくは労を払うことにします。

農事を始めるにあたって、山の神に今年の農事の安寧と実り多きことを祈りました。

陰暦の五月です。まっとうな夏を迎えるため、色とりどりの緑が単一の緑色にまとまろうとするかのように、木々は葉の色を濃くし始めました。

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