渚作り

野山に、時鳥(ほととぎす)や郭公(かっこう)や筒鳥(つつどり)が渡ってきて鳴き始めました。空木(うつぎ)や藤の花が咲き、海老根(えびね)、延根千鳥(のびねちどり)、采配蘭(さいはいらん)、甘野老(あまどころ)、一人静(ひとりしずか)、二人静、鈴蘭などの野の花が、そっと、あるいは群がり咲いています。いい季節になりました。いつもの自然の役者が今年も田んぼの周りに揃い、いざ田植えの時です。

畔(くろ)塗り、田起こし、水入れ、荒がき、代(しろ)だし、と順に田植えの準備をしていく中で気がついたことがあります。これは海で言えば、ひたひたの渚を作っているのだなと。人工的に渚を作る作業が田植えの準備なのです。

渚は海でもなく陸でもないところ、それはまた海であり陸であるところです。渚は鳥や魚や蟹や貝やイソギンチャクやゴカイなど、たくさんの生き物で賑わいます。田んぼは水の中でもなく土の中でもないところ、それは水の中ともいえますし、土の中ともいえるます。稲にとっての心地よい生育場所ですが、稗(ひえ)や蛍藺(ほたるい)やこなぎや、またヤゴや水蜘蛛やゲンゴロウやイモリや水かまきりなどたくさんの生き物たちの棲み処でもあります。

海と陸を結ぶ渚が、生きものにとって気持ちいいのと同じように、水と土の境目が稲には快適な場所なのです。稲のために快適な人工の渚を作ることが、田植えの準備と言えます。海と陸の境目の渚、水と土の境目の田んぼ、町と山の境目の里山、そういう境目に生き物は多く集います。生きものの集う境目作りに、ここしばらくは労を払うことにします。

農事を始めるにあたって、山の神に今年の農事の安寧と実り多きことを祈りました。

陰暦の五月です。まっとうな夏を迎えるため、色とりどりの緑が単一の緑色にまとまろうとするかのように、木々は葉の色を濃くし始めました。

            IMG_3043.JPG



この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。